ユニットエコノミクスとは
一言でいえば、「顧客1件(または注文1件・席1つ)あたりで、ビジネスが黒字化するかを測る物差し」です。売上規模が膨らんでも、単位あたりが赤字なら拡大するほど損をします。そこで粗利(売上−変動費)と獲得・維持のコストを同じ単位で比較し、拡大すべきか、まず改善すべきかを判断します。
背景には、広告費の投入や人員増が容易な時代に、単位の採算が崩れた成長が目立ったことがあります。ユニットエコノミクスは、早い段階で“儲かる仕組み”を数字で確認するための実務的なフレームです。重要なのは平均でなくコホート(獲得月別)でも見ること。チャネルや時期で経済性が変わるためです。
どんな目的で使う
主目的は拡大投資の意思決定です。たとえばSaaSなら、LTV(顧客生涯価値)とCAC(獲得単価)、グロスマージン(粗利率)、ペイバック期間(回収期間)で判断します。
B2B:年額契約のACV、解約率・アップセル率、導入コスト(CS・オンボーディング)まで含む貢献利益を算出。
B2C:初回価値到達率→継続率→課金転換率のファネルを通し、広告・手数料・配送などの可変費を差し引いたうえで採算を見る。
目的は単純です。「このチャネルに1円足すと、将来いくらの粗利が返るか」を可視化し、増やす・止める・直すを素早く決めること。
近い用語との違い
損益計算書(PL)は全社の過去実績。ユニットエコノミクスは将来の投資判断のための単位指標です。
ARPUは平均売上で、採算性(粗利・コスト)まで含みません。
LTV/CACは代表的なユニット指標の一つで、ユニットエコノミクスそのものと同義ではありません(どのコストを含むかの設計がポイント)。
コホート分析は期間・チャネル別に時間経過の価値とコストを追う手法で、ユニットエコノミクスを精密に評価するための見方です。
規模感・目安
あくまで一般論ですが、
- LTV/CACは2〜3倍以上で拡大余地があると議論しやすい(モデルにより解釈差あり)。
- ペイバック期間はB2Cで数カ月〜12カ月前後、B2Bで12〜24カ月程度が一つの目安。
- 粗利率は、サブスクやデジタル配信で高め(例:70%前後)が多い一方、物流・決済手数料が重いモデルは低めになりがち。
重要なのは値そのものより、チャネル別・プラン別・地域別のレンジと、改善の勾配(どれだけ速く良化しているか)です。
実務でよくあるつまずき
- 売上ベースで黒字化を誤認:粗利(変動費控除後)で見ずに判断
- 平均の罠:良いチャネルが悪いチャネルの赤字を覆い隠す(コホート・チャネル別で分解不足)
- コストの抜け:CS/オンボ/返金・チャーン抑制費をCACや維持コストに含めない
- 短期偏重:初月の指標だけで判断し、12カ月後の価値曲線を追わない
- 価格改定の未検証:単価×継続率×解約理由の同時最適を試さない
まとめ
ユニットエコノミクスは、単位あたりの“稼ぐ力”を見極め、投資の是非を素早く決めるための基準です。粗利ベースの貢献利益で捉え、LTV/CAC・ペイバック期間・継続率をチャネル×コホートで追うことが肝心。
次の一歩として、①計測設計の明文化(どこまでをCAC・維持費に含めるか)、②主要チャネルの12カ月コホート表(売上・粗利・解約)を作る、③価格・プラン・オンボーディング改善の2週間スプリントを回してください。単位が健全になれば、スケールは自然と説得力を帯びます。