シリーズCとは

シリーズCは、シリーズA・Bで作った「伸びる仕組み」を、より大きな市場で再現し続けるための資金調達です。単に広告や人員を増やすだけではなく、価格戦略、プロダクトの信頼性、データとガバナンス、そして国際対応までを一体で底上げしていきます。ここで問われるのは、成長の速さだけでなく、成長の質です。ユニットエコノミクスが崩れないか、解約やサポート負荷が膨らまないか、キャッシュの使い方が理にかなっているか。大きく走りながら、車体を剛性の高いものに取り替えていく、そんなイメージに近い段階です。
投資家の顔ぶれも変わります。レイトステージのVC、グロースエクイティ、上場株にも投資するクロスオーバーファンド、事業会社のCVCなど、より大型で長期の資金を供給するプレイヤーが増えます。調達はプロダクトや国・規制の壁を越えるための「橋」をかける行為であり、上場や大型買収に向けた信用の積み上げでもあります。

どんな目的で使う(または、どんな段階で起きる)

シリーズCは、すでに顧客が広がり、収益が積み上がる手応えがある企業が、次の壁を超えるために使います。例えば、国内で確立した販売・運用の型を海外に展開する、多言語・多通貨・現地規制に対応する、SLAやセキュリティをエンタープライズ水準に引き上げる、大口顧客向けの機能やサポート体制を整える、といった取り組みです。
また、価格とプランの再設計、アップセル・クロスセルの仕組み化、大規模なデータ基盤や分析環境の整備、ミドルマネジメントの層を厚くすることも主題になります。M&Aで周辺機能や地域の足場を取りにいく選択肢も現実味を帯びてきます。目的は一つに集約できます。成長の角度を落とさず、母数を何倍にもする。その過程で、利益やキャッシュフローの“質”を悪化させないことです。

近い用語との違い

シリーズBは「型の拡張と組織の多層化」が中心で、まだ内部の仕組みづくりに重心があります。シリーズCはそこから一段進み、市場の広がりと資本効率を同時に最適化する局面です。海外やエンタープライズへの本格展開、M&A、複数事業ラインの運用など、外向きの打ち手が増えます。
シリーズD以降は、より大規模な拡張や収益性の確立、あるいはプレIPO準備・上場後の成長資金まで含むケースが出てきます。Cは、これらの“終盤の選択肢”を現実のものにするための地ならしだと捉えると整理しやすいでしょう。

規模感・目安(あくまで一般論)

金額は業種と市況で幅がありますが、シリーズCでは数十億〜数百億円規模の調達が見られます。希薄化はおおむね10〜20%台に収まることが多い印象です。使途は、海外展開費用(現地人材・法務・決済・税務)、大規模なプロダクト投資(信頼性・セキュリティ・監査対応)、データ基盤、ミドル〜シニア層の採用、ブランド・PR、M&A原資などに分散します。
指標面では、売上の伸びと同じくらい解約・粗利・回収期間・LTV/CACの健全性が重視されます。SaaSであれば、エンタープライズ比率の上昇に伴う単価・粗利の改善、サポート体制強化による継続率の安定、パイプラインの精度向上など、量と質の両輪が評価対象になります。

実務でよくあるつまずき(簡潔に)
  • 海外や大口へ一気に踏み込み、規制・決済・サポートが追いつかず満足度を下げる。
  • 広告や割引で売上を積み上げ、ユニットエコノミクスが悪化する。
  • データ基盤が未整備で、意思決定が経験則に戻ってしまう。
  • M&A後の**統合作業(PMI)**が遅れ、シナジーが出ない。
  • タームシートの条件(参加型優先など)が重く、将来ラウンドや上場時の自由度を損なう。
まとめ

シリーズCは、確立した成長エンジンを「大きな市場で、長く、安定して」回すためのステップです。金額の大きさを競う段階ではなく、12〜18か月で越えるべき壁を具体化し、その達成に必要な資源を丁寧に用意する段階です。次に理解を深めるなら、海外展開に伴う法規・税務の基本、M&A後の統合プロセス、そしてキャッシュの質を守る価格・粗利設計。成長の速さと強さを両立させる視点が、シリーズCの成否を分けます。