シードラウンドとは

一言でいえば、プロダクトと事業仮説を前進させるための最初の本格的なエクイティ調達です。プレシードで芽生えた手応えを、顧客獲得・継続・収益化の指標に落とし込み、シリーズAで評価される状態へ到達する“助走区間”をつくります。
背景には、初期企業が直面する「資金・人材・信頼の同時不足」があります。開発と顧客開拓を並走させるには外部資本が有効で、投資家の伴走・ネットワークも加わることで、検証の速度と質が上がります。重要なのは、資金が“使途の明確なマイルストーン”に結びついていることです。

どんな目的で使う

主な目的は、PMF(Product-Market Fit)到達の確度を高めること。具体的には、①MVPから本番仕様への格上げ、②顧客開発と初期セールス体制の構築、③主要KPI(獲得・活性・継続・単価)の立ち上がり、④採用の核人材(エンジニア/Go-To-Market)の確保、⑤データ計測基盤とセキュリティ・法務の整備です。
B2Bでは有料PoC→本契約への移行率、B2Cでは初回価値到達率や継続率の改善など、系列の指標が次ラウンドの説明線になります。

近い用語との違い

プレシードは検証前夜の段階で、創業準備や初期試作・顧客インタビューが中心。金額も小さく、エンジェルや友人知人からの出資・補助金が混在します。
シードは、仮説→実装→市場反応が回り始め、KPIを“数字で語れる”段階を目指します。調達手段は優先株によるプライスポラウンドのほか、状況に応じてSAFEコンバーチブルノートが用いられることもあります。
シリーズAは、再現性のある獲得・提供・収益化の型が見え、規模拡大に資金を投下する局面。求められる指標の精度とガバナンスが一段上がります。なお、シードエクステンション(Seed+)やブリッジという呼び方で、Aに届くまでの追加ラウンドを挟むケースもあります。

規模感・目安

一般論として、調達額は数千万円〜数億円台前半に幅があります。ランウェイ(資金余命)は12〜18カ月程度を見込み、希薄化は10〜25%に収まる設計がよく用いられます。評価レンジ(バリュエーション)は数億〜十数億円のケースが多い一方、事業領域・成長率・チームによって大きく変動します。
KPIは業態次第ですが、B2Bなら有料PoC件数→本契約化率、平均契約単価(ACV)、解約率、B2Cなら初回価値到達率、週次/月次継続率、課金転換率などが典型。LTV/CACやペイバック期間が論点になるのもこのフェーズです。

実務でよくあるつまずき
  • マイルストーン不明確:資金用途が「開発・マーケ」に散り、A到達の証拠が積み上がらない
  • キャップテーブルの歪み:プール拡張や転換証券(SAFE/ノート)の扱い誤りで想定以上の希薄化
  • 計測基盤の未整備:イベント定義・コホートが曖昧で、学習が再現しない
  • 採用の順序ミス:役割の重複や過剰固定費でランウェイ短縮
  • データルーム不備:財務・KPI・契約・プロダクト証跡が揃わず、デューデリ対応が長期化
まとめ

シードラウンドは、仮説を数字に変え、シリーズAへ続く“学習の証拠”を積むための調達です。鍵は、使途→マイルストーン→KPI→次ラウンドの物語が一直線に結ばれていること。
次の一歩として、①12〜18カ月のロードマップ(四半期ごとのKPIと採用計画)、②調達額別の三案(小・中・大)で希薄化と到達確率を比較、③データルームの初期版(財務、計測定義、主要指標、主要契約、セキュリティ方針)を整えてください。資金はゴールではなく、検証を加速する燃料です。燃やし方が明確なら、次の扉は開きやすくなります。