SAFE(Simple Agreement for Future Equity)とは

一言でいえば、次の価格決定時に株式へ置き換わる前提で今お金を受け取る契約」です。
背景として、初期段階では売上や指標が十分に育っておらず、企業価値(バリュエーション)を厳密に決めにくいことが多い。そこで、評価は次のエクイティ・ファイナンス時に確定し、それまでの投資家には
割引(Discount)上限評価額(Valuation Cap)といった“優先条件”を付与しておく、という考え方が生まれました。
重要なのは、契約コストと意思決定のスピードです。株式発行や社債発行に比べて文書が簡素で、クロージングを小刻みに積み上げやすい。結果として、タイミングを逃さずにプロダクト開発・採用・マーケに資金を振り向けられます。

どんな目的で使う

使いどころは主にプレシード〜シード。PMF前後でトラクションが見え始めたが、まだ明確な価格でのラウンドを組みづらい局面です。
具体的には、①ブリッジ資金として次ラウンドまでのランウェイを延ばす、②ロールリング・クロース(随時クロージング)で投資家ごとに時差で調達する、③スタートアップ側は議決権やガバナンスの大枠を保ったまま早期に現金化したい——といった目的に合致します。たとえるなら、離陸前に必要な速度が貯まるまで滑走路を伸ばす方法です。

近い用語との違い

コンバーチブルノート(転換社債型)との違いが最も迷いがちです。ノートは利息満期がある「負債」要素が中心で、条件管理がやや重くなりがち。一方SAFEは利息・満期が通常なく、将来の株式転換を約する“権利”の付与が核です。
また、通常のエクイティ・ラウンド(プライスポラウンド)はその場で企業価値を確定し、新株発行と取締役会・株主総会等の手続きを進めます。速度と簡素性を優先するならSAFE、価格確定とガバナンス設計を同時に進めるならプライスラウンドという住み分けが一般的です。
SAFEには条項バリエーションもあります。代表的なのはValuation CapDiscount(例:10〜30%程度)、複数本発行時に有利条件を追随させるMFN(Most Favored Nation)、将来のプロラタ参加権(持分維持権)など。いずれも投資家保護と将来転換の整合を取るための“調整ネジ”です。

規模感・目安

金額レンジは数百万円〜数億円まで幅広く、シード合計で数千万円〜数億円規模にSAFEが混在するケースも珍しくありません。条件面は、Discountは1〜3割程度、Capは次ラウンド想定評価の控えめ〜妥当水準に置かれることが多い、という一般論があります。
転換トリガーは、次のエクイティ・ファイナンス成立時、あるいはM&A・IPO等の流動化イベント。どのイベントでどう転換・精算するかを条文で決めておくことがポイントです。

実務でよくあるつまずき
  • Cap/Discountの重なり方を誤解し、想定より希薄化が進む
  • 複数のSAFEの条件不統一(片方にMFNあり・片方になし等)で後工程が複雑化
  • 次ラウンドまでの期間が長期化し、投資家・株主間の情報期待値に乖離が生じる
  • 取締役会・株主合意の取り回しや株主管理(Cap table更新)の運用負荷を過小評価
まとめ

SAFEは、評価の確定を先送りにしてスピード重視で資金を確保する仕組みです。キーパーツはCap/Discount/MFN/プロラタ/転換トリガー。条項の整合を取り、Cap tableの将来像をシミュレーションしたうえで使うほど効果を発揮します。
次の一歩として、想定ラウンド規模と評価レンジを2〜3パターン作り、転換後の持分比率を試算してみてください。条項の“ネジ”を回すたびに、スピードと希薄化のバランス感覚が磨かれます。