ランウェイとは
ランウェイ(Runway)は、現在の現金残高で事業を何か月継続できるかを示す残存期間です。会計上の損益ではなく、実際の入出金に基づくキャッシュ視点で算定します。背景にあるのは、スタートアップの成長には赤字期間が付き物という現実。赤字そのものは悪ではありませんが、現金の尽きるリスクは即座に事業停止に直結します。だからこそ、ランウェイは調達時期・コスト設計・投資配分を決める中核の舵取り指標になります。
どんな目的で使う
使い方はシンプルです。まず、資金計画の“時計”として使います。標準式は「ランウェイ(月)=手元現金 ÷ 月次ネット・バーン」。ネット・バーンは(現金支出−営業由来の現金収入)で計算し、資金調達や補助金などの一時的流入は除外します。
次に、着手タイミングの逆算。たとえばランウェイが12か月なら、デューデリジェンスやタームシートに要する時間を見込み、少なくとも6〜9か月前から調達準備に入る、といったオペレーションに落とし込みます。
さらに、角度(バーンの質)を変える意思決定に活用します。固定費の硬さ、可変費への置換、年払いの前受け、回収サイト短縮など、キャッシュの出入りを直接動かす施策を設計し、ランウェイの実効延伸を図ります。短期の赤字があっても、中期でネット・バーンを改善できる投資なら、許容判断が可能になります。
近い用語との違い
バーンレートは現金の減る速度そのもの。ランウェイはその速度と残高から導く残存期間です。
会計上の赤字は発生主義で、減価償却や売上認識の時期が影響します。ランウェイは現金主義で、支払・入金の実タイミングを映します。
フリーキャッシュフローは投資・財務活動まで含む包括指標で、構造の把握に有用ですが、残走行距離の即時計算にはランウェイが適しています。
ワーキングキャピタル(運転資金)は売掛・買掛・在庫の滞留の大きさ。ランウェイは期間全体の純流出入と残高の関係を見ます。
規模感・目安
市況やモデルでブレますが、アーリー〜グロース期は9〜18か月のランウェイを一つのレンジとして設計し、調達・融資・大型ディールの準備は6〜9か月前倒しで着手するのが一般的です。
算定は月次の現金実績で行い、季節性や一時金の歪みをならすため3か月移動平均のネット・バーンも併用すると実務的です。複数シナリオ(ベース/楽観/慎重)を用意し、採用計画・広告投資・価格改定・年払い比率の変更などの前提差分をブリッジで説明できる状態にしておくと、取締役会や投資家との対話が滑らかになります。
実務でよくあるつまずき
- 調達や助成金の一時的流入をネット・バーンに混在させ、実力値を過小評価。
- 単月の大口入金・前払費用でランウェイを楽観視し、平均化せず判断。
- 採用前倒しで固定費が硬直化し、角度を戻せなくなる。
- 売掛・在庫の膨張でキャッシュ回収サイトが伸び、想定より早く尽きる。
- バーンを一律カットして成長エンジン(獲得・継続施策)まで停止させる。
まとめ
ランウェイは、どれだけ走れるか・いつ曲がるか・どこで給油するかを同時に教えてくれる道具です。現金主義で算定し、ネット・バーンの定義を文書化、3か月移動平均と複数シナリオで“角度”と“残高”を一体管理する。調達は前倒し、費用は可変化、回収は前受けとサイト短縮で地力を高める。次に深めるなら、LTV/CACと回収期間の接続、前受・年払いの設計、固定費→可変費の再設計。滑走路の長さだけでなく、燃費の良い機体に変えていく発想が、事業の生存率と勝率を引き上げます。