プレシリーズAとは
一言でいえば、シードで得た手応えを「再現性ある成長の型」に仕上げるための中間ラウンドです。
背景には、MVPや初期売上が立っても、獲得・活性・継続・収益化がまだ不安定という現実があります。プレシリーズAは、KPIの再現性検証と組織・ガバナンスの整備に資金を充て、シリーズAの審査線に耐える状態へ引き上げる目的で実施されます。
どんな目的で使う
狙いは明確です。まず単発の“当たり”を、再現可能なオペレーションへ。具体的には、①獲得チャネルの単価・量の安定化、②オンボーディングの歩留まり改善(初回価値到達の時間短縮)、③継続率・チャーンの低減、④単価設計とプライシング検証、⑤営業・CS・開発の核人材採用と計測基盤の強化。
並行して、情報セキュリティ・契約・会計まわりの整備も前倒しします。シリーズA以降は顧客・投資家双方のデューデリが一段深くなるため、ここで“足腰”を固めます。
近い用語との違い
シードは「仮説→初期実装→市場反応」を示す段階。プレシリーズAは、そこで得た学びを再現性という基準で磨き込む段階です。
シリーズAは、再現性が確認された型に資金を投下し拡大する局面。プレシリーズAはその手前で不確実な要素を限定し、Aの必要条件(指標・体制・ガバナンス)を整えます。
呼称が近いシードエクステンション(Seed+)/ブリッジは、次ラウンドまでの期間延長の色合いが強いのに対し、プレシリーズAは“Aの合格基準”に照準を合わせた改善投資である点が異なります。手段としては優先株のプライスポラウンドのほか、状況によりSAFE/コンバーチブルノートを活用するケースもあります。
規模感・目安
一般論として、調達額は数千万円〜数億円台前半に幅があります。ランウェイは9〜15カ月程度の設計が多く、希薄化は10〜20%前後に収まることがよくあります。
KPIの目安は業態次第ですが、B2Bなら有料PoC→本契約の転換率、リード→商談→受注の歩留まり、ACVの初期伸長。B2Cなら初回価値到達率、週次・月次継続率、課金転換率、ARPUの仮説妥当性が論点になりやすい。LTV/CACやペイバック期間は「Aの合格ライン」を語るときの共通言語です(数値はレンジでの対話が前提)。
実務でよくあるつまずき
- “埋めるべきギャップ”の不明確さ:Aに必要なKPI・体制の要件定義が曖昧
- 広告偏重でプロダクト内の摩擦を放置(Activation/Retentionの改善が遅れる)
- 採用の順序ミス:核人材よりも周辺の増員を先行させ、固定費だけ増やす
- 計測設計の粗さ:イベント定義・コホート不統一で学習が再現しない
- キャップテーブルの歪み:プール拡張や転換証券の扱い誤りで希薄化が想定超過
まとめ
プレシリーズAは、初期の手応えを“再現できる成長の型”に変えるためのラウンドです。KPIの再現性、体制・ガバナンス、資本政策の三点を一本の線で結ぶことが成功条件。
次の一歩として、①シリーズAの合格基準(指標・体制)の明文化、②ギャップを埋める12カ月のロードマップ(四半期ごとのKPIと採用計画)、③3シナリオ(最小/標準/野心)で必要資金・希薄化・到達確率を比較してください。“Aで説明可能な物語”を逆算して投資する——その設計が、限られた資金で最大の前進を生みます。