Exit(イグジット)とは

Exit(イグジット)は、スタートアップの株式に投じられた価値を現金や上場株に変える「出口」を指します。未上場の間は、創業者・従業員・投資家の持つ株式は基本的に換金が難しい状態です。そこで、IPO(新規株式公開)やM&A(会社・事業の売却)、既存株の二次売却(セカンダリー)などを通じて流動性を得ます。重要なのは、Exitが単なる“現金化イベント”ではない点です。事業が社会に根づいた証明であり、次の起業や投資へ資本と人材を循環させる起点にもなります。

どんな目的で使う

目的は三つに集約できます。第一に、投資家の資金回収です。ファンドには運用期間があるため、一定の時点でリターンを確定させる必要があります。第二に、創業者・従業員のリクイディティ(換金可能性)の確保です。ストックオプションや持株を適切に現金化できると、生活の安定や再挑戦の原資が生まれます。第三に、事業の次のステージに必要な器を得ることです。上場で信用力を高めて大口顧客を開拓する、買収により大企業の販売網・技術・人材を取り込む、といった戦略的な効果があります。
Exitが起きる段階はさまざまですが、一般的にはシリーズB以降で規模と再現性が見え、成長の持続性や収益性の手応えが出てきた頃から具体性を帯びます。そのうえで、上場基準や買い手の条件、既存株主の意向が一致していくと、実行に進みます。

近い用語との違い

IPOは、株式を取引所に公開し資金調達と流動性を同時に得る手段です。独立性を保ちながら、広く市場の資本を受け入れます。M&Aは、他社との統合を通じてExitを実現するもの。対価は現金・株式・その組み合わせで、統合作業(PMI)まで含めて価値が決まります。
セカンダリーは、未上場のまま一部の既存株主が保有株を第三者へ売却して現金化する方法で、会社に新しい資金は入らない点が公募増資中心のIPOと異なります。自己株式取得(買戻し)は会社が株主から株を買い取る手段で、資本政策上の調整に使われることがあります。これらは“どの器で、誰がお金を受け取り、会社に資金が入るかどうか”が違いです。

規模感・目安

規模は業種や市況で大きく振れます。IPOでは時価総額や流通株比率、公募・売出の組み合わせで調達額が決まり、数十億〜数百億円規模まで幅があります。M&Aは企業価値(バリュエーション)を売上倍率やEBITDA倍率、将来キャッシュフロー(DCF)の観点でレンジ評価し、成長率や解約率、粗利、ユニットエコノミクス、買い手とのシナジーの具体性が価格に影響します。セカンダリーはディスカウントや優先株の条項(清算優先・参加型か否か)で実効価格が変わり、売買後の権利関係も整理が必要です。いずれも「一般論の幅」として捉え、個社の条件で最終形が決まります。

実務でよくあるつまずき
  • 価格に意識が集中し、統合計画や上場後運用(IR・開示・内部統制)が後手になる。
  • 清算優先や希薄化防止など既存条項の整理不足で、分配や意思決定が紛糾する。
  • セカンダリーの比率が高すぎ、会社に成長資金が入らず、成長鈍化を招く。
  • 従業員のロックアップや税務・報酬設計が曖昧で、士気や採用に悪影響が出る。
  • PMI(統合)や上場後KPI運用の準備不足で、Exit後の価値が想定通りに出ない。
まとめ

Exitは、事業の価値を社会と資本市場に接続するための“橋”です。手段は複数あり、どれが最適かは資金需要、独立性、株主構成、成長戦略で決まります。重要なのは、Exitそのものをゴールにせず、その後に続く運用(上場企業としての開示と資本政策、あるいは買収後の統合とシナジー実装)まで含めて逆算すること。次に理解を深めるなら、タームシートの基本(清算優先・参加型の有無・情報権)、上場の開示とIR運用、M&A後100日のPMI設計。出口の設計が丁寧であるほど、事業の価値は長く、強く、社会に根づいていきます。