エクイティファイナンスとは

一言でいえば、会社の持分(株式)を新たに発行して資金を受け取る調達です。借入と異なり返済義務はありませんが、発行によって既存株主の持分が希薄化します。
背景には、初期〜成長段階のスタートアップが先行投資(プロダクト、採用、Go-To-Market)を要する現実があります。そこで投資家の資金に加え、メンタリングやネットワーク、信用補完といった非金銭的リソースも取り込み、検証の速度と確度を上げます。重要なのは、評価(バリュエーション)と条項を一体で設計し、希薄化と成長のバランスを取ることです。

どんな目的で使う

目的は明快です。成長の“前倒し”に必要な資源を獲得し、実験→学習→拡張のサイクルを加速すること。
具体例として、①MVPから本番品質への格上げ、②顧客獲得・オンボーディング・継続の指標立ち上げ、③核人材の採用(エンジニア/セールス/CS)、④セキュリティ・法務・計測基盤の整備、⑤海外展開や大型PoCへの着手。エクイティは返済に縛られない資金で、成長の谷を跨ぐときの選択肢になります。

近い用語との違い

デット(借入)は返済義務とコベナンツを伴う一方で希薄化は小さくなります。エクイティは返済不要だが希薄化が生じるのが基本構造。
プライスポラウンド(優先株増資)は、その時点で評価を確定し新株を発行。清算優先(Liquidation Preference)や議決権、取締役会構成、プロラタ権などの条項を同時に設計します。
SAFE/コンバーチブルノートは将来の株式転換を前提とする橋渡し
。評価確定は次の価格ラウンドに先送りされます(SAFEは通常満期・利息なし、ノートは負債性で利息・満期を持つのが一般的)。
セカンダリー(既存株式の売買)は会社に資金が入らず、売り手に現金化が生じる取引で、一次発行の資金調達(プライマリー)とは目的が異なります。

規模感・目安

あくまで一般論ですが、シード数千万円〜数億円台前半シリーズA数億〜十数億円のレンジが幅広く見られます。希薄化は1ラウンドあたり10〜25%程度に収める設計がよく用いられます。
評価はプリマネー/ポストマネー
で語られ、オプションプール(従業員向け持株枠)を投資前に拡張するかが希薄化に大きく影響します。
主な条項は、清算優先(1倍非参加型が一般的だが設計次第)参加型の有無アンチディルーション(主に加重平均)プロラタ参加権情報/監査権限など。評価と同じくらい条項の実効が重要です。

実務でよくあるつまずき
  • プリ/ポストとプール拡張の混同:プールをプリ側に含める前提で予定外の希薄化
  • 条項の読み落とし:清算優先の積み上がり、参加型、アンチディルーションの数値化不足
  • 過度な高評価依存:次ラウンドで実力未達→ダウンラウンドのリスク
  • データルーム不足:財務・KPI・契約の証跡が粗く、デューデリが長期化
  • キャップテーブルの可視化欠如:SAFE/ノート転換、未行使オプションをフル希薄化で管理していない
まとめ

エクイティファイナンスは、希薄化と引換えに“返済に縛られない資金と支援”を取り込み、成長の速度を上げる手段です。鍵は、評価(レンジ)×条項(実効)×キャップテーブル(将来像)を一枚の表で整合させること。
次の一歩として、①3手法(コンプス/VC法/簡易DCF)で評価レンジを作成、②条項パッケージを2案(例:1倍非参加型/参加型なし vs 条件強め)で希薄化・リターンの感応度を試算、③プール拡張を含むフル希薄化キャップテーブルを更新してください。“いくらで、どの条件で、誰と組むか”が揃えば、資金は単なる現金ではなく学習と拡張のレバーになります。