デットファイナンスとは
一言でいえば、返済義務のある資金を外部から借り入れる調達手段です。株を発行して資金を得るエクイティ(持分の希薄化を伴う)と違い、持分を守りやすい一方で元利返済と契約条件(コベナンツ)を背負います。
背景として、スタートアップは売上が伸びてもキャッシュ回収が遅れがちで、採用・仕入・広告など前倒しの現金が要ります。そこで、銀行融資、ベンチャーデット、ABL(資産担保融資)、ファクタリング、リース、レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)といった形で、事業の“血流”を確保します。重要なのは、返済スケジュールとキャッシュフローの整合です。
どんな目的で使う
使いどころは、運転資金の平準化と成長投資のブースト。例えば、
・シリーズA前後の在庫・仕入の拡大、広告投資の先行、受注から入金までのギャップの橋渡し。
・設備やソフトウェアの導入をリース/割賦でならし、初期キャッシュアウトを抑制。
・シリーズBに向け、売上債権やMRR(定期売上)を根拠にベンチャーデットで非希薄化の資金を上乗せ。
・ブリッジ資金として9〜18カ月のランウェイを延ばし、次の価格確定ラウンドで評価を最大化。
目的は一つに尽きます。“事業が作る将来のキャッシュ”に合わせて返済を設計し、希薄化と資本コストを最適化すること。
近い用語との違い
エクイティファイナンスは持分を譲り資金を得る方法。コストは希薄化という形で後払い、返済義務はありません。デットは返済義務があるが希薄化が小さい。
ベンチャーデットは、主にVC出資の直後に提供されやすいデットで、ワラント(将来の持分取得権)が付くことがあります。金利は銀行より高めでも、希薄化は限定的。
コンバーチブルノートは法的には負債だが、次のラウンドで株式に転換する前提のハイブリッド。返済より転換を想定します。
ABL/ファクタリングは、在庫・売掛金など特定資産を担保として資金化。RBFは売上に連動して返済する仕組みで、季節性が強い事業と相性が良い。
リースは設備の使用権を分割払いする形で、設備投資の初期負担を抑える手段です。
規模感・目安
一般論として、借入額は数千万円〜数億円台に幅があり、返済期間は12〜48カ月が目安。金利は数%台〜10%台前半までレンジが出ます(信用力・担保・ワラント有無・金利環境で変動)。
返済は均等償還(毎月返済)かバレット/インレポル(期末一括・据置後返済)など。ミニマムキャッシュ残高やDSCR(債務返済余裕倍率)、MRR維持、追加借入の制限(ネガティブ・プレッジ)といったコベナンツが設定されるのが通例です。
ベンチャーデットは、直近のエクイティ調達額の一部(例:20〜40%相当)やMRRの一定倍率を上限とする設計が見られます。RBFでは、月次売上の一定%を返済に充当し、目標回収倍率(例:1.2〜1.8倍)に到達したら終了、という形が一般的です。
実務でよくあるつまずき
- キャッシュフローとのミスマッチ:回収前に返済が先行し、運転資金が痩せる
- コベナンツ違反:月次報告や指標の未達で違反→早期返済請求(加速条項)や金利引上げ
- 隠れコスト:アレンジ費、コミットメントフィー、成功報酬、前倒し返済ペナルティ、ワラント希薄化
- クロスデフォルト:他契約の違反が波及し一斉にデフォルト認定
- 担保の過度な設定:知財・預金まで包括担保で次ラウンドの柔軟性が低下
まとめ
デットファイナンスは、希薄化を抑えつつ成長スピードを守る“現金の足回り”の設計です。鍵は、返済スケジュール×キャッシュ創出力×コベナンツの三点を、キャップテーブルと一枚の絵で管理すること。
次の一歩として、①12〜24カ月のキャッシュフロー予測に月次元利返済を差し込み、最低現金残高・DSCR・バッファ月数を定義、②目的別の手段比較表(ベンチャーデット/ABL/RBF/リース)を作成、③タームシートの実効コスト(金利+手数料+ワラント換算希薄化)を年率換算で並べてください。返済が“事業の呼吸”に合っているかを確かめれば、無理のない成長カーブが描けます。