コンバーチブルノートとは

一言でいえば、「将来のエクイティ(株式)に転換できる社債」です。スタートアップの超初期は、売上や指標が不安定で企業価値(バリュエーション)を決めにくい。そこでまずは社債として資金を受け取り、次のプライスラウンド(価格が確定する増資)で所定の条件に従い株式へ転換する仕組みが使われます。
重要なのは、スピードと柔軟性。通常の増資より書類・調整がシンプルで、投資家ごとに時差で資金を積み上げやすい一方、利息(Interest)満期(Maturity)を持つ“負債”としての性格を忘れないことが肝心です。

どんな目的で使う

主にプレシード〜シードの局面で、次の価格確定ラウンドまでのブリッジ(つなぎ)資金として使われます。
想定シーンは、①プロダクトの検証や初期採用のスピード勝負を支える運転資金、②ロールリング・クロース(随時クロージング)で小口を積み上げたい場合、③株式比率の本格交渉は次ラウンドに先送りしたい場合、など。比喩すれば、次の増資に渡る仮設の橋を架けるイメージです。

近い用語との違い

まずSAFE(Simple Agreement for Future Equity)との違い。SAFEは通常利息・満期がなく、将来の株式取得“権利”に近い簡易契約。一方、コンバーチブルノートは負債(社債)で、利息と満期が基本。満期到来までに転換・返済の扱いを定義しておく必要があります。
プライスポラウンド(価格確定増資)との違いは、評価をその場で確定するか否か。プライスポラウンドは企業価値を決めて新株を発行、社内ガバナンスの設計も同時に前進。ノートは評価確定を後回し
にし、当面は負債として機動的に資金を受け取ります。
条項面では、Valuation Cap(上限評価額)やDiscount(転換割引)はSAFEと共通しやすい一方、ノート特有のInterest/Maturityが入ることで、キャップテーブル(持株表)や資金繰りへの影響設計が一段複雑になります。

規模感・目安

一般的なレンジとして、調達額は数千万円〜数億円まで幅広く用いられます。利率は年数%台満期は12〜24カ月程度が目安とされることが多いです。転換条件は、次のエクイティファイナンス成立を主なトリガーとし、CapまたはDiscount(例:10〜30%程度)を適用して転換価格を決めます。
なお、M&AやIPOなどの流動化イベントが起きた場合の精算・転換の扱いも、条文であらかじめ定義しておくのが実務の定石です。ここでの取り決めが、投資家・起業家双方の納得感を左右します。

実務でよくあるつまずき
  • 満期接近時の対応(返済/転換/延長)の合意形成が遅れ、交渉が難航
  • 利息の累積や複数ノートの重なりにより、想定以上の希薄化が発生
  • Cap/Discountの適用順序や定義(プレマネー/ポストマネー)が不明確で、計算齟齬
  • 次ラウンド条件と非整合(優先株の権利設計、MFNやプロラタ権の扱い)で契約差分が残る
まとめ

コンバーチブルノートは、価格確定を先送りしつつ、利息・満期を伴う負債で素早く資金を確保する道具です。Cap/Discount/Interest/Maturityの4点を核に、次ラウンドの優先株条件と整合させる設計が不可欠。
次の一歩として、想定ラウンドの評価レンジを2〜3通り用意し、各ケースで転換価格・希薄化・利息累積を簡易モデルで試算してみてください。満期に向けたオプション(延長・転換・返済)の合意形成を事前に描くことで、橋を渡る速度と安全性のバランスが整います。