キャップテーブルとは

一言でいえば、会社の“持ち分(株式)に関する全情報を一枚に整理した表”です。誰が何株を持ち、将来転換予定の証券(SAFEやコンバーチブルノート)、未行使のストックオプション(ESOP/オプションプール)、行使・転換の前提などをフル希薄化ベースで一覧します。
背景として、スタートアップでは調達のたびに資本構成が変化します。そこでキャップテーブルが単一の情報源(Single Source of Truth)となり、持分%・優先権・転換条件を関係者間で整合させる役割を担います。
重要性は二つ。交渉の前提(誰がどれだけ、なぜそうなるのか)を共通化できること。そして採用・インセンティブ設計(オプション付与)や意思決定(議決権)に直結するため、日々の経営判断の質を底上げできることです。キャップテーブルは、資本の交通整理図
のような存在だと捉えると理解しやすいでしょう。

どんな目的で使う

主な利用目的は次の通りです。
まず、資金調達前のシミュレーション。投資額・評価額(プリ/ポスト)、新設オプションプールの拡張有無を入れて、希薄化と持分%の変化を確認します。
次に、転換証券の取り扱い。SAFEやコンバーチブルノートのCap/Discount/利息・満期(ノートの場合)を反映し、転換価格と持分への影響を算出します。
さらに、従業員インセンティブ設計。採用計画に沿って付与枠(プール)とベスティング条件
を管理し、将来の人件費インパクトも把握します。
M&Aやストックオプション行使、二次売却が起きた際の反映・履歴管理もキャップテーブルの役割です。

近い用語との違い

株主名簿は法定帳簿で、現時点の株主・住所・持株数等を記録するもの。キャップテーブルは将来転換・未行使分まで含む管理表で、設計と予測に重心があります。
資本政策表は、ラウンドごとの計画(シナリオ)を並べる資料。キャップテーブルは現状と確定取引の結果を反映し続ける“生きた台帳”という違いがあります。
バリュエーションは価格の見積り。キャップテーブルは価格が決まった結果の配分と希薄化を扱います。
タームシートは投資の条件書。キャップテーブルはその条件(例:プール拡張をプリマネーに含めるか)を数値化して示します。

規模感・目安

一般論として、シード〜シリーズAで新規発行による希薄化は10〜25%程度に収まる設計が多いです。オプションプール5〜15%の範囲で設け、採用計画に応じて拡張します(拡張を投資前に反映するかは交渉ポイント)。
キャップテーブルはイベント発生ごと(調達・行使・譲渡)に即時更新し、最低でも月次で整合チェックします。計算はフル希薄化(既発行株式+未行使オプション+転換証券)が基本。議決権ベースと経済的持分(清算優先前/後)を分けて見る運用も有効です。

実務でよくあるつまずき
  • フル希薄化の漏れ:未行使オプションやSAFE/ノートの複利利息・Cap/Discountを反映し忘れる
  • プリ/ポストとプール拡張の取り違え:プールをプリ側に入れる前提で想定以上の希薄化が発生
  • 条項の数値化不足:MFN、リキッド優先、参加型・非参加型などをテキストのままにして計算と乖離
  • 版数管理の混乱:スプレッドシートの複製・並行編集で数式破損、誰の最新版か不明確
  • ベスティング・行使条件の曖昧さ:退職・買戻し条項の未整備でトラブルに発展
まとめ

キャップテーブルは、資本構成の単一情報源であり、調達・採用・ガバナンスの土台です。フル希薄化で一元管理し、プリ/ポストの前提とプール拡張転換証券の条項を必ず数値へ落とし込みましょう。
次の一歩として、①現状テーブルの監査(株式数・条項・オプション残高の照合)、②3シナリオ(調達なし/小型調達/本格調達)で希薄化シミュレーション、③運用ルール(更新タイミング・版管理・承認フロー)を文章化してください。これだけで、次ラウンドの交渉と社内説明が格段にスムーズになります。