バーンレートとは

バーンレート(Burn Rate)は、会社の手元現金が月次でどれだけ減っているかを示す指標です。会計上の損益ではなく、現金の流出入に着目するのが特徴です。創業初期は赤字でも構いませんが、現金が尽きれば事業は止まります。そこで、現金の減り方=バーンの“角度”を常時把握し、いつまで走れるか(ランウェイ)とどの打ち手で角度を変えられるかを判断します。
実務では二つを使い分けます。グロス・バーン=月間の現金支出合計、ネット・バーン=(現金支出−事業由来の現金収入)。資金調達による現金流入は日常の稼働を示さないため、ネット・バーンの分母には含めません

どんな目的で使う

第一に、ランウェイ(残存期間)の算定です。

  • ランウェイ(月)=手元現金 ÷ 月次ネット・バーン
    このシンプルな式で「あと何か月、現状の燃費で走れるか」を即時に把握できます。第二に、打ち手の優先順位。採用や広告、インフラ、外注のどこを抑えれば角度が変わるか、キャッシュ視点で効きどころが見えます。第三に、調達のタイミング設計。ラウンド準備・交渉・監査には時間がかかるため、通常は少なくとも6か月以上のランウェイを残して動き始めます。
    計測はキャッシュベースで月次集計し、季節性や一時要因を均すために3か月移動平均も併用します。対象は運転資金に関わる現金の出入り(給与・外注・広告・サーバー・家賃・決済手数料等)と、反復的な売上入金。資金調達・補助金・税還付など非反復は原則、ネット・バーンから除外します。
近い用語との違い
  • 損益計算上の赤字(会計利益):発生主義で、減価償却や売上計上のタイミングが影響。バーンは現金主義で、支払い・入金の実タイミングを映します。
  • 運転資金(ワーキングキャピタル):売掛・買掛・在庫の増減による短期資金の“滞留”を示します。バーンは期間中の純流出入にフォーカス。
  • フリーキャッシュフロー:投資・財務活動まで含む包括指標。バーンは主に事業運営の燃費を見るために、投資や調達の特殊要因を切り分けます。
  • ランウェイ:バーンと手元現金から導く残走行距離。ランウェイが短くても、バーンの角度を変えれば延ばせます。
規模感・目安

市況やモデルで最適点は変わりますが、一般論としてアーリー〜グロース期はランウェイ9〜18か月を意識し、調達準備は6〜9か月前倒しで着手します。角度の見方は二軸が有効です。

  1. 売上(またはARR・MRR)の伸び vs バーンの増加:伸び1に対してバーンがどれほど増えるか。
  2. バーンの質:固定費(ヘッドカウント・家賃)偏重か、可変費で柔軟に調整できる構成か。
    プロダクトの信頼性やリテンションに効く投資は、短期のバーン増でも中期のネット・バーン縮小につながることがあります。数字はレンジで捉え、因果で語るのが要点です。
実務でよくあるつまずき
  • 広告費や外注を止めて短期にバーンを下げる一方、成長エンジンまで止めてしまう
  • 資金調達の流入をネット・バーンに混ぜ、実力値を見誤る。
  • 一時金(年払いの入金・大型前払)で単月が歪むのに、平均化せず判断する。
  • 採用計画が先行し、固定費化で角度が戻らない。
  • 在庫・売掛の膨張を軽視し、キャッシュ回収サイトが伸びて実効バーンが悪化。
まとめ

バーンレートは、どれだけ使い、どれだけ伸び、いつ尽きるかを最短距離で示す道具です。グロス/ネットの区別を明確にし、キャッシュベースで月次+移動平均を運用。ランウェイは式で出し、調達と打ち手の着手タイミングに結びつける。次に深めるなら、費用の可変化(人件費の弾力設計)回収サイト短縮(前受・年払いの設計)ユニットエコノミクスとの接続(LTV/CAC・回収期間)。角度を変えられれば、同じ手元資金でも、到達できる地点は大きく変わります。