ARR(Annual Recurring Revenue)とは

ARRは、サブスクリプションなど毎年繰り返し発生する契約売上を年率で平準化した金額です。新規契約・アップセルで増え、解約・ダウングレードで減ります。重要なのは「一度きりの売上(初期費・導入作業・機器販売)」を含めず、継続部分だけを切り出すこと。これにより、事業の持続力と成長の角度を、月次や四半期のノイズに惑わされずに把握できます。ARRは資金調達・経営会議・取締役会での共通言語であり、価格や製品、セールス体制の打ち手が来年以降の土台をどれだけ厚くしたかを示す“定規”です。

どんな目的で使う

まず、成長計画と資源配分の基準になります。営業・マーケ・CS・開発へどれだけ投資すれば、12〜18か月後にどのARR帯へ到達できるかを逆算する。次に、キャッシュ計画の安定化。請求や入金のタイミングに左右されないため、採用や設備など固定費の意思決定がしやすくなります。さらに、製品・価格・体験の改善効果の可視化。例えば価格改定や新プラン導入、オンボーディングの見直しが、解約や拡張にどう効いたかをARRの増減(New/Expansion/Contraction/Churn)で分解し、再現可能な打ち手にします。
年払い・複数年契約・従量課金が混在する場合も、ポリシーを決めて“毎年続く見込み分”へ正規化します(例:従量のうちベース利用はARR、超過は非継続として別管理)。一度ルールを定めたら、期間を通じてブレさせないことが信頼の源です。

近い用語との違い

MRRは月次の継続売上で、一般に「ARR=MRR×12」。ただし月中の契約開始・解約の取り扱いで差が出ます。
Bookingsは「受注額」で、前払い・複数年分を含むことがあり、継続性を直接は表しません。
Billingsは請求額、Revenue(会計上の売上認識)は提供実績に応じた計上。どちらもキャッシュや会計の視点で、“継続性の質”を示すARRとは目的が異なります。
ACV/TCVは契約価値(年額/総額)で、セットアップ費など非継続分を含み得ます。
NRR/GRRは既存ベースの伸びを%で示す比率指標で、ARRの増減要因を解像度高く見るときの相棒です。

規模感・目安

数値の“正解”は業種・客単価で変わります。一般論としては、ARRの純増が安定しているか既存ベースの伸び(NRR>100%が望ましい)解約・ダウングレードが説明可能な範囲に収まっているかが健全性の目安です。プロフェッショナルサービス比率が高すぎると持続力が読みにくくなるため、継続売上の比重を意識して設計します。また、為替影響や季節性が強い場合は、ARRを一定の為替前提・定義で管理し、別途ブリッジで差分を説明できるようにしておくと、外部との対話がスムーズです。

実務でよくあるつまずき
  • 初期費・導入作業・一時的値引きをARRに混在させ、年次の持続力を誤認する。
  • 新規・拡張・縮小・解約の区分定義が曖昧で、チーム間で数字が合わない。
  • 複数年契約や従量課金の正規化ルールが一貫せず、期をまたぐと比較不能。
  • 為替変動や価格改定の影響をブリッジで説明せず、“実力の伸び”が見えない。
  • ARRと会計売上の突合(リコンシリエーション)怠り、監査・投資家と齟齬。
まとめ

ARRは「今月いくら売れたか」ではなく、来年も続く収益の厚みと伸びを示す指標です。非継続を排し、定義を文書化し、New/Expansion/Contraction/Churnのブリッジで語る。会計売上・請求・キャッシュと突き合わせ、為替や価格・構成の影響を整理する。次に理解を深めるなら、MRRの計測ポリシーNRR/GRRによる既存ベースの健全性チェック、そして価格とプラン設計がARRに与える因果。同じ努力でも、定義が整うほど、成長の“角度”ははっきり見えるようになります。