バリュエーションとは

一言でいえば、企業の価値を金額で表す見積もりです。スタートアップでは、資金調達やM&A、ストックオプションの発行など、重要な意思決定の起点になります。
背景として、初期企業は将来の不確実性が大きく、確定的な“正解価格”はありません。そこで、複数の算定手法を組み合わせた妥当性の範囲(レンジ)を作り、投資条件(優先株の条項、希薄化、オプションプール)とセットで総合判断します。
基本の意味は二層です。Enterprise Value(事業価値)は負債・現金を含む事業そのものの価値、Equity Value(株式価値)は株主に帰属する価値。実務で交渉に使うのは株式価値(プリマネー/ポストマネー)で、持株比率や転換条件に直結します。

どんな目的で使う

主な目的は、資金調達の価格決定希薄化の設計です。シリーズごとに投資額と評価額を決め、創業者・従業員・投資家の取り分を調整します。
ほかにも、①M&Aの売買価格の目安、②ストックオプションの発行価格(公正価値)の参考、③コンバーチブルノート/SAFECapDiscountに基づく転換価格の算定、④社内の事業計画(KPIと価値の関係)の検証など。
算定手法は複数あります。マーケット・コンプス(上場比較倍率)、プレシデント・トランザクション(過去の買収事例)、DCF(割引キャッシュフロー)、初期向けのVC法(ターゲットリターンから逆算)やスコアカード/Berkus法(定性的加点)。手法ごとに前提が異なるため、一法独断ではなくレンジで議論するのが現実的です。

近い用語との違い

プリマネーは投資前の株式価値、ポストマネーは投資額を加えた直後の株式価値。持分%は通常、ポストマネー基準で決まります。
株価(1株当たり価格)は、発行済株式数(フル希薄化ベース)に評価額を割り振って得ます。ここに新設オプションプールを「投資前に確保(プール拡張をプリマネー側に含める)」かで創業者の持分が大きく変わります。
EV(事業価値)Equity Value(株式価値)は、EV=株式価値+有利子負債−現金等の関係。M&Aの初期議論はEVで比較し、最終的な受け取りは株式価値で決まる、という整理が役に立ちます。
Cap(上限評価額)付きSAFEは、次ラウンドの実価格とCapの低い方で転換価格を決めるのが一般的。一見同じ“評価額”でも、条項により実効希薄化が変わる点に注意です。

規模感・目安

あくまで一般論ですが、プレシード〜シードの評価は数億円未満〜十数億円に幅があり、シリーズA十数億〜数十億円、以降は事業モデル・成長率・市場規模で大きくばらつきます。
一回のラウンドでの希薄化(新規発行による持分低下)は、しばしば10〜25%程度を目安に設計されます。オプションプール数%〜10%台で拡張するケースが多く、プール拡張をプリマネーに含めるかは交渉ポイント。
初期は利益が小さいため倍率法(売上倍率等)が使われ、PMF後・収益性が見えるにつれ収益倍率やDCFの説得力が増します。重要なのは単なる数字でなく、前提となるKPI(成長率・継続率・粗利・LTV/CAC)と整合が取れていることです。

実務でよくあるつまずき
  • プリ/ポストとプール拡張の扱いを誤り、想定以上に希薄化
  • フル希薄化株式数に未行使オプションや転換証券を入れ忘れる
  • Cap/Discount/リキッド優先など条項を“評価額と別物”と捉え、実効価格を見誤る
  • 比較対象の選定ミス(ビジネスモデルや市場成長が不一致)で倍率が過大/過小
  • DCFの前提(成長率・割引率)が楽観的/統一されず、社内外で説明が揺れる
まとめ

バリュエーションは、数字そのものより“前提と条項の物語”です。プリ/ポスト、EV/株式価値、プール、転換条項を一枚のテーブルで可視化し、レンジ(幅)で交渉するのが実務的。
次の一歩として、①3つの手法(コンプス/VC法/簡易DCF)でレンジ作成
、②オプションプール5〜10%の2案、③SAFE/ノート転換の有無を組み合わせたキャップテーブルのシナリオ表を用意してください。数字の整合と説明可能性が揃えば、希薄化と成長投資のバランスを納得感ある形で設計できます。