MRR(月次経常収益)とは

MRR(Monthly Recurring Revenue)は、毎月繰り返し発生する契約売上を月額に正規化した金額です。年払い・複数年契約・従量課金が混在していても、方針を決めて「継続部分だけ」を月額換算し、一時金(初期費・構築費・機器販売・スポット支援)を除外します。月次のノイズに敏感で、成長の角度を早期に捉える“日常運転の定規”として機能します。投資家・経営・現場が同じ数字で会話できることが最大の価値です。

どんな目的で使う

第一に、計画と早期警戒。新規(New)・拡張(Expansion)・縮小(Contraction)・解約(Churn)に分解(いわゆるMRRブリッジ)し、どの打ち手が効いたかを月次で検証します。解約やダウングレードの兆しはMRRに即座に反映されるため、オンボーディングや価格、サポートの修正を翌月から当て込めます。
第二に、資源配分。チャネル別・セグメント別の純増MRRを見て、営業・マーケ・CSの時間と予算を移す。高解像度のMRRは「何を増やすと伸びるか」を実務に落としやすくします。
第三に、見込みの精度向上。月末MRRの着地とパイプライン(稼働開始予定、アップセル候補、継続リスク)を突き合わせ、翌四半期のレンジを描きます。会計売上やキャッシュより先に“傾き”を示すので、採用・広告・設備の意思決定が理路整然になります。

近い用語との違い

ARRは年率化した継続売上で、一般にARR=MRR×12。同じ思想ですが、MRRの方が変化を早く捉えられます。
MRR vs Revenue(会計売上):Revenueは提供実績に応じた認識で、非継続も含まれます。MRRは継続部分限定の管理指標です。
Bookings/ACV/TCV:受注額・契約年額・契約総額で、先払い・一時金を含み得ます。将来の仕事量は示せても、継続性の質は別管理が必要。
MRR vs MRR Churn/NRR/GRR:MRRは量、NRR/GRRは既存ベースの伸び率。組み合わせることで、維持と拡張のバランスが見えます。
従量課金:ベース利用をMRR、超過分は非継続として別KPIにする等、社内定義を固定すると比較可能性が保てます。

規模感・目安

絶対的な正解値はありません。見るべきは安定した純増の継続性と、既存ベースの健全性(NRRが100%超を目標にできているか)解約・縮小の説明可能性です。複数年・年払いは月額換算(÷12)で整え、為替の影響が大きい事業は一定レートでの管理と実績レートのブリッジを併記すると対話が滑らかになります。SaaSであれば、プロフェッショナルサービス比率が高すぎるとMRRの純増が読みにくくなるため、継続売上の比重を意識して設計します。

実務でよくあるつまずき
  • 初期費・導入支援・ディスカウントをMRRに混在させ、継続性を誤認。
  • 定義の不統一(例:月途中開始・停止の扱い、従量の線引き、為替レート)で部門間の数字が合わない。
  • ブリッジの区分(New/Expansion/Contraction/Churn)が曖昧で、打ち手の因果がぼやける。
  • 複数年契約の扱いが場当たりで、期間比較が不能になる。
  • MRRとRevenue/Billings/現金を突合しないため、外部説明で信頼を落とす。
まとめ

MRRは「今月いくら売れたか」ではなく、来月以降も続く売上の厚みと傾きを測る道具です。非継続を排し、定義を文書化し、MRRブリッジで原因分解する。会計売上・請求・キャッシュと必ず照合し、為替や価格改定・構成変化の影響はブリッジで説明する。次に深めるなら、NRR/GRRの運用チャーンの類型化(ロゴ/売上・自発/非自発)価格とプランがMRRに与える因果。同じ努力でも、指標の設計が整うほど、成長の“角度”ははっきり見えてきます。