LTV(顧客生涯価値)とは

LTV(Lifetime Value/顧客生涯価値)は、1人の顧客が関係存続中に企業にもたらす粗利の総額を指します。売上ではなく粗利で見るのは、販売や提供にかかる直接コストを引いた“残る力”が投資の原資になるからです。サブスクでも都度購入でも考え方は同じで、顧客がいつまで使い、どれくらい支払い、途中で単価や利用がどう変わるかを積み上げます。なぜ重要か。LTVは成長投資の上限を決めます。いくらまで獲得費用(CAC)を許容できるか、値上げ・プラン設計・継続施策が効いているか、意思決定の基準になります。

どんな目的で使う

第一に、獲得投資の判断です。LTVが明確なら「このチャネルは単価が高いが回収できる」「この施策は拡張売上を生まないので厳しい」など、配分の優先度が決めやすくなります。第二に、価格とプランの設計。同じ顧客でも利用深度や支払い主体で価値が変わります。従量課金や上位プラン、アドオンを設計し、“使うほど価値が伝わる”価格階段を整えると、自然にLTVが積み上がります。第三に、継続(リテンション)の検証。解約の理由別に手当てを打ち、オンボーディングやカスタマーサクセスの導線を整備すると、在籍期間が延びてLTVが底上げされます。
算出は二通りが実務的です。ひとつはコホート積み上げ型。月次・四半期コホートごとに継続率と平均粗利を追い、実測で面積を積みます。もうひとつは簡易式で、たとえば「平均月次粗利 ÷ 月次解約率」のように近似します。拡張売上(アップセル/クロスセル)があるモデルでは、解約率と同時に単価上昇分も織り込みます。ディスカウントや返金も控除し、実態に合わせて設計します。

近い用語との違い

ARPU(ユーザー当たり平均売上)は一定期間の“瞬間風速”で、生涯を見ません。LTVは時間積分で、在籍の長さと単価の変化を含みます。
CLVはLTVと同義で使われることが多い呼称です。
CAC(顧客獲得コスト)は新規獲得にかかった平均コスト。LTVとセットでLTV/CACや回収期間
を判断します。
TCV(契約総額)は契約上の合計金額で、提供コストや解約リスクを含みません。LTVは粗利ベースで実績・実態に寄せます。

規模感・目安

事業により最適値は異なりますが、一般論としてはLTV/CACが約3前後だと投資が回りやすく、サブスクでは回収期間(CACを粗利で回収)12〜24か月をひとつのレンジとして用います。低単価・セルフサーブは短期回収、高単価・エンタープライズはやや長めの回収を許容する傾向です。重要なのは絶対値より傾きと一貫性。コホートごとに在籍曲線が寝ていないか、拡張売上の比率が増えているか、粗利率が適切に維持されているかを観察します。ディープディスカウントや長期無料延長が多い場合は、実効単価に置き換えて計算します。

実務でよくあるつまずき
  • 売上ベースで計算し、粗利や返金・原価を落としてしまう。
  • 平均で一括算出し、セグメント差(客単価/チャネル/地域)を見逃す。
  • 解約率の定義(ロゴ解約と売上解約)を混同し、拡張売上を反映しない。
  • 有料化が遅いモデルで計測ラグを補正せず、LTV/CACの解釈を誤る。
  • 指標だけを追い、行動設計(オンボーディング/CS/価格階段)に結びつけない。
まとめ

LTVは「いくら稼げたか」ではなく、どれだけ投資できるかを教えてくれる羅針盤です。粗利ベースで実態に合わせて算出し、コホートで積み上げ、CACや回収期間と必ずセットで評価する。次に深めるなら、リテンションカーブの読み方価格とプランの最適化コホート分析の運用。LTVの解像度が上がるほど、同じ予算でより遠くまで走れるようになります。