シリーズBとは

シリーズBは、シリーズAで見つけた「勝ち筋」を仕組みと人員で大きく増幅するための資金調達です。すでに製品が市場で受け入れられ、獲得から継続までの基本動線は回り始めている。ここからは、単なる売上拡大に留まらず、事業運営を“工場化”して再現性とスピードを両立させます。営業・マーケ・CSの分業、データ基盤の強化、階層型組織への移行。新市場や新ラインの立ち上げも選択肢に入ります。
目的は明確です。規模の経済を効かせ、成長の角度を維持したまま母数を拡大すること。 そのために必要な資金と人材、ガバナンスを一気に揃えるのがシリーズBの役割です。

どんな目的で使う(または、どんな段階で起きる)

この段階では、すでにPMF(プロダクト・マーケット・フィット)の手応えがあり、ユニットエコノミクスも一定の説得力を持っています。シリーズBの資金は、次のような現実的な課題に向けて使われます。
まず、GTM(Go-To-Market)の拡張。チャネルを複線化し、広告依存や特定セールスへの属人性を薄めます。次に、プロダクトの堅牢化。中核機能の信頼性、セキュリティ、分析基盤、国際化対応(多言語・決済・法令)を強化します。さらに、管理レイヤーの整備。ミドルマネジメントの採用、等級・評価・OKR、情報セキュリティや内部統制の運用を日常業務に落とし込みます。
ここで重要なのは、「人を増やせば伸びる」のではなく、仕組みが人を活かして伸びる状態に切り替えることです。

近い用語との違い

シリーズAは“型づくりと初期スケール”が中心。対してシリーズBは“型の拡張と組織の多層化”。新市場への展開や新ラインの試行など、選択肢が広がるのが特徴です。
シリーズC以降は、国内外での大規模展開やM&A、プレIPO準備など、資本効率と成長の同時最適化が主題になりやすいフェーズ。Bはその手前で、伸びを持続させる仕掛けを作り切る段階だと理解すると整理しやすいでしょう。

規模感・目安(あくまで一般論)

業種や市況で幅はありますが、数十億円〜100億円超の調達が見られます。株式希薄化は15〜25%程度に収まるケースが一般的。使途の配分は、採用・GTM拡張・プロダクト信頼性・データ/セキュリティ・海外対応・運転資金など。指標面では、SaaSならARRの成長角度の維持、解約率の安定、LTV/CACや回収期間の健全化、パイプラインの精度改善といった“質の伸び”が注目されます。コンシューマーやマーケットプレイスでは、リテンションと供給/需要バランス、テイクレートの持続性が要点です。
大切なのは、金額の大きさ=正解ではないこと。12〜18か月で達成すべきマイルストーンから逆算して妥当な規模を設計します。

実務でよくあるつまずき(簡潔に)
  • 採用を人数で積み上げ、役割設計とマネジメント層が後追いになる。
  • 広告チャネル偏重で粗利と回収期間が悪化、角度は出るが質が痩せる。
  • 海外展開を急ぎ、法規制・決済・サポート体制が追いつかない。
  • データ基盤が脆弱で、意思決定が感覚依存のまま拡大する。
  • タームシートの条件(優先株条項等)が重く、将来ラウンドの自由度を奪う。
まとめ

シリーズBは、伸びる仕組みを“会社の標準装備”にするための調達です。Aで得た勝ち筋を、チャネル・組織・データ・ガバナンスで支え、角度と母数を同時に伸ばす。金額を競うのではなく、マイルストーンに対して必要十分な資源を用意すること。ここを丁寧に通過できれば、次のC以降――広域展開やM&A、プレIPO準備――の選択肢が現実味を帯びてきます。まずは「何を、いつまでに、どう計測するか」を言葉と数字で揃えましょう。