シリーズAとは?
シリーズAは、スタートアップが「最初の手応え」をつかんだあとに踏む、本格的な成長に向けた資金調達です。アイデア検証や試作段階(プレシード/シード)を抜け、ユーザーがきちんと使い、売上や利用が“積み上がる”兆しが見えてきたタイミングで実行します。集めたお金は、開発だけでなく、営業・マーケティング・カスタマーサポート・採用など、会社の土台づくりと拡大に広く使われます。イメージとしては「試運転を終えて、いよいよ高速道路に乗る前の給油」です。
どんな目的で行うの?
一言でいえばスケール(拡大)です。今のやり方がある程度うまくいくと確認できたら、その“型”をもっと多くの顧客に届けるための仕組みづくりに投資します。営業体制を作る、広告だけに頼らない集客を整える、問い合わせ対応を安定させる、使い続けてもらうための機能を磨く――こうした「伸びる仕組み」に資金を回し、成長の速度と持続力を同時に高めます。
金額の目安は?
業界や景気によって差はありますが、数億〜数十億円がよくあるレンジです。金額そのものより大切なのは、「調達後の12〜18か月で何を達成するか」が具体的に描けていることです。例えば、売上の見通し、主要機能の完成、解約の低減、採用計画などです。
シードやシリーズBと何が違う?
- シード:仮説検証と最初の顧客獲得が中心。「本当に必要とされるか」を確かめる段階。
- シリーズA:必要とされる手応えを土台に、仕組みで広げる段階。
- シリーズB:仕組みが回り始め、さらに規模を一段引き上げる段階。地域やプロダクトラインを広げたり、より大きな投資でスピードを上げたりします。
投資家は何を見ているの?
専門用語で言えば「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)に近い、または一部達成」。難しく聞こえますが、要するにお金をかけて広げても同じように評価され、使い続けてもらえる見込みがあるかを見ています。たとえば、継続利用が増えている、解約の理由を説明できて改善が進んでいる、紹介や口コミが自然に起きている、といった“手触りのある証拠”が大切です。
お金は具体的に何に使うの?
プロダクトの強化はもちろんですが、シリーズAでは会社としての体制づくりが大きなテーマになります。営業やマーケティングの基本動線を整える、カスタマーサポートで困りごとに素早く対応できる仕組みを作る、データを見ながら改善できるように計測の基盤を整える、頼れる人材を迎える――こうした取り組みで“人に依存しすぎない運転”に切り替えていきます。結果として、同じ打ち手を繰り返せば同じ成果が出る状態に近づきます。
株式はどれくらい渡すの?
一般的には、シリーズAで会社の20〜30%程度の株式が新しい投資家に渡ることが多いと言われます(状況により上下します)。株式が薄まる分、資金と引き換えに成長を加速させ、次の段階で会社の価値をより大きくする、という考え方です。
進め方の流れは?
おおまかには、事業の現状を整理したピッチ資料(事業の説明書)を作り、投資家に説明します。興味を持ってもらえたら、ビジネスや財務、法務などの確認(デューデリジェンス)に進みます。条件のすり合わせ(評価額や出資比率、役員体制の合意など)を経て、契約・着金という流れです。特別なことをしているように見えますが、要は「今の手応え」「これからの計画」「資金の使い道」をわかりやすく共有して、一緒に走る仲間を迎える作業です。
よくあるつまずき
よくあるのは、少し急ぎすぎることです。使い続けてもらえる理由が固まる前に広告で一気に広げると、解約が増えてしまいがちです。もう一つは、人に依存したやり方のまま拡大しようとすること。属人的な営業やサポートをそのまま人数で増やすのではなく、やり方を“型”にして、誰がやっても回る形に変えた方が、長く走れます。
まとめ
シリーズAは、スタートアップにとって「うまくいきそう」を「ちゃんと拡大できる」に変えるための給油ポイントです。プロダクトの良さを、体制と仕組みで支える。お金はそのための道具です。ここを丁寧に通過できると、次のシリーズBに向けた景色がぐっと開けます。焦らずに、しかし止まらずに。いま見えている勝ち筋を、確かな形にしていく段階がシリーズAです。